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(1) 子どもたちの「生きる力」をはぐくむには大人が変わらなければならない
(2) 農の持つ教育力―農村地域とともに開く学びの場
出典 『21世紀の日本を考える』2003年 2月号
執筆 埼玉県立総合教育センター・農業教育センター所長 蕪木 豊

4 「学校文化の再生」へ向けた先生方への支援

 学級崩壊とか不登校、これはある意味で、子どもたちが学校を否定している状況だと考えられます。面白くないから学校に来れないという子どもたちに、学校が魅力あるものになるよう、学校教育をもう一度見直さなければいけない時期にきています。それには、先生方が生徒にとって魅力のある存在になる必要があります。
 私は「学校文化の再生」と言っているのですが、何を手がかりに再生していったらよいのか。そこが考えどころです。いま教育改革で、教育制度や仕組みなどハードの面で改革が話題になり、進められていますが、より大切なことは、各学校の教育実践に役立つ、課題解決のための実践的なソフトを開発し、実行していくことではないでしょうか。たとえば、子どもたちの心をはぐくむような指導技術。子どもたちが、学校でいきいきと楽しく学ぶために必要な土壌づくりが急務となっています。教科とは違う、子どもたちとの間柄を大切にする指導技術が、昔の先生に比べて落ちてきているのでは……。
 では、何をもって子どもたちの心をはぐくむのか。そこで総合教育センターで考えたのが、先生方への次の4つの重点研修です。

1、「生きる力」をはぐくむ食農教育の推進
2、人間関係を豊かにする集団活動(野外活動・室内外の遊び等)の推進
3、「豊かな心」をはぐくむ読書活動の推進
4、言葉を中心としたプレゼンテーション技能の向上

 この4つの重点研修を、地道に10年くらいやっていけば、学校は変わるのではないか。こうした研修に多くの先生方に参加していただき、子どもたちの感性をはぐくみ、集団を適切に指導することができる指導技術等の向上を図っていくことで、「学校文化」を再生していきたいと思っています。
●食農教育での支援
 食農教育は、4つの重点研修の1つで、総合教育センターでは、その推進のため14年度に5つの事業を実施しています。いずれも、「生きる力」のもととなる食の大切さと、さらには食のもととなる農への理解を子どもたちが深めることができるような指導技術を、先生方に身につけてもらうという内容で行ないました。
 5つの事業について、それぞれのテーマは次の通りです(表1)。
1 こころとからだをつくる食農教育研修会
 ――農業体験を通して、食農教育の指導力を向上
2「総合的な学習の時間」を支援する食農体験研修会
  〜三富新田から学ぶ〜
 ――循環型有機農法、循環学習を「総合的な学習の時間」で展開
3「食と農の指導」に関するフォーラム
 ――食農教育の必要性を学ぶ、基調講演とパネルディスカッション
4 食と農「食品の科学」研修会
 ――食の安全性について、ともに考える
5「生きる力」をはぐくむ食農教育の推進に関する調査研究
 ――食農教育のプログラム開発を目指して
表1 「生きる力」をはぐくむ食農教育5事業の推進
――私たちは、他の生命をいただいて生きているということを理解するために
1こころとからだをつくる食農教育研修会(専門研修、4日)
――農業体験を通して、食農教育の指導力を向上
ねらい: 生きることを支える食と、食を支える農について研修し、食農教育の指導者を育成
対象者: 小中高特の教員、学校栄養職員、管理職
定 員: 160人(東西南北4地区×40人)
2「総合的な学習の時間」を支援する食農体験研修会(専門研修、3日)〜三富新田から学ぶ〜
――循環型有機農法、循環学習を「総合的な学習の時間」で展開
ねらい: 平地林の恵みを活用した循環型農業を形成している三富地区の農業について学び、「総合的な学習の時間」の指導に役立てる
対象者: 小中高特の教員
定 員: 80人
3 「総合的な学習の時間」を支援する栽培飼育活動指導者養成講座
――食農教育の必要性を学ぶ、基調講演とパネルディスカッション
ねらい: 食農教育のねらいと必要性を広報する
対象者: 幼小中高特の教員、管理職、学校栄養職員、PTA等
定 員: 800人(東西南北4地区×200人)
4 感性を磨く草花栽培指導者養成講座
――食の安全性について、ともに考える
ねらい: 食品表示を中心に、検出実験を行なうとともに、生徒自身の食生活への主体的関心をはぐくむことができるよう、指導力を高める
対象者: 小中高特の教員、学校栄養職員
定 員: 40人(食品添加物コース20人、遺伝子組換えコース20人)
5「生きる力」をはぐくむ食農教育の推進に関する調査研究(7回)
――食農教育のプログラム開発を目指して
ねらい: 「総合的な学習の時間」等における「食と農に関する学習」について、プログラムを開発する
対象者と定員: 小中の教員16人
○学校農園がある学校、ない学校、双方に対応する
○学校外の講師の派遣・学校外の施設や地域の利用などにも対応する
 このほか農業教育センターでも、食農教育の支援に八つの事業に取り組んでいます(表2)。
表2 農業教育センターの食農教育8事業
1 食と農のふれあい体験教室
2 食農教育指導者養成講座
3 「総合的な学習の時間」を支援する栽培飼育活動指導者養成講座
4 感性を磨く草花栽培指導者養成講座
5 学校環境緑化活動指導者養成講座
6 バイオ教育指導者養成講座(基礎講座)
7 バイオ教育指導者養成講座(専門講座)
8 環境にやさしい栽培技術に関する調査研究
 これら研修会の参加者は合計1374人にのぼり、今後、必ずや本県食農教育の普及に役立っていくものと考えます。
●シラバスで地域の教育力を生かす
 こうした食農教育への支援のために、農業教育センターを中心として、先生方が食農教育を指導する際の学習指導案およびシラバス(年間の学習案内)を作成しました。
 シラバスとは、もともとはラテン語で、日本では明治期に「教授要目」と翻訳され普及したもので、教育課程において扱われる教科の目標、内容、指導計画など、教材の概要を記したものを言います。
 埼玉県ではシラバスを学力向上の一つの柱としており、生徒にこの科目は何のために何をどう学ぶのかということを知らせ、学習意欲をもってもらうようにしています。これからやる授業は、こういうものなのだと、意味づけをきちっと教えていくことで、子どもたちに学習意欲を植えつけます。
 このシラバスをつくる目的には、保護者や地域の人々に学校で行なわれている教育活動をわかりやすく説明するということもあります。そうすることで、学校を地域に開放していくことになります。たとえば、食農教育でバケツ稲作をやっていることがシラバスを通じて保護者に伝わると、PTAの会合のときなどに親御さんから「もっと、こうしたほうがいいのでは」という提案があったりします。
 学校を地域に開放することで、地域がもっている「教育力」が学校で生きてくるのです。

5 いまがチャンス、高齢者の知恵の伝承を

 これだけ安全で安心して食べられる野菜(農畜産物)が求められているとき、農業高校の作物栽培技術で旧態依然とした化学肥料・農薬漬けの農業を教えているのが現実です。今後は、やはり有機栽培を基本とした環境にやさしい農作物栽培に転換していくことが急務だと思い、昨年から農業教育センターでは調査研究を始めています。
 これから小中学校で食農教育(農業体験学習)をすすめていくには、まだまだ完全とはいかないかもしれませんが、有機栽培の考え方を取り入れて実施していく必要があると思います。そんなとき参考になるのが、高齢者の方が実際に若い時代にやっていた農業のさまざまな知恵です。活用しない手はありません。
 日本では、昭和30年代前半くらいまでは、循環型の有機農業でやってきていたわけです。昔、有機農業でやっていた人たちは、70〜80歳代ですから、ここ5年くらいが勝負だと思っています。昔流の農業のやり方の知恵、たとえば「作物の周りにシソを植えたりして虫を寄せつけない」「ネギとニラを混植して土壌病害をださない」「天恵緑汁」(韓国のやり方)などなど。
 そういう知恵を伝承・復活するには、身近なところ(地域)でそれをやっていた人、知っている人に頼んで教えてもらうことだと思います。
 地域の高齢の方々に、野菜栽培などの先生になってもらい、地域ぐるみで過去の知恵を子どもたちにつなげていく。そういうことが大事ではないかと思っています。実際、小中学校の「総合的な学習の時間」のなかで、子どもたちは地域の高齢者に会い、話を聞いて感動しています。高齢者には(自分が)役に立っているんだと生きがいになります。子どもたちにとって有益であるばかりか、高齢者にとっても生きがいになります。まさに一挙両得。地域の農家を巻き込んだ、一大運動にしていきたいと思っています。
 いずれにいたしましても、世の中に農に関心をもつ親農派をつくっていくことが、これからの人づくり、社会づくりに大切なことではないかと考えています。
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