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(1) 普通科生徒の栽培実践と教育的効果
(2) 高校生の「心の居場所」と園芸植物
(3) 学びを生かす「農業教育と園芸療法ボランティア」
出典 『農業学習の教育効果に関する総合的研究』
執筆 高柳 真人(高知大学教育学部)
協力 日本農業教育学会

3 園芸植物とメンタルヘルス

(1)園芸植物と安らぎについてのアンケート

 このように、園芸植物の存在が、高校生の安らげる場所作りと関係がありそうだということが示されたが、その実際をより詳しく検討するため、平成13年に、園芸デザイン分野の科目を選択した高校生22名を対象に次のような質問を行った。
「作物を栽培したり、草花を眺めたり、植物とふれあうことが、心の健康によいといわれています。これまで、植物とふれあうことで、心が落ち着いたり、嫌なことを忘れたり、元気になった経験がありますか。経験のある人はどんな経験があったか教えてください。
 *そうした経験が(ある・ない)←どちらかに○を付けてください」
 その結果、全体の90.9%に当たる20名が、そうした経験があると回答した。回答を大きく分けると、園芸植物の存在そのものに安らぐというものと、園芸植物を栽培することで安らぐというものの2つがある。いくつかの回答を次に示す。

(2)園芸植物の存在そのものに安らぐ

花をプレゼントされると他のこと(嫌なこと)を忘れたり、何事もなかったように生活できたりしていた。いい香りがして落ち着けた。
イチゴの苗が花をつけていたときに、なんか心が和んだ。
家にはそこそこの庭があり、母がガーデニング好きで、一面芝生で花壇もあります。春から夏は明るくて、きれいな花が咲いているので、朝行く時、気持ちがいい。
桜の花びらが舞い散るさまを見ると、ふっと何かが抜ける感じで、心が和む。
いやなことがあったら、花を買って植えてしまう。植えるところから花がきれいに育つのを見ているとなんか嬉しい。変わっていく花(植物)を見ていると、自分も毎日変わっているんだと思って頑張ろうと思える。
ビルが多い都会の中で植物園に入った。自分の周りからビルが見えなくなり緑で囲まれた時、気持ちが落ち着いた。心の中にあった波がなくなった感じ。
 園芸植物の存在そのものが安らぎをもたらす要因として、回答にも示されているように、園芸植物の持つ色や香りが、カラーセラピーやアロマテラピーとしての効果を持っていると考えられること、また、生きとし生ける生命の象徴的存在と直接ふれあう効果もあろう。また、筆者が以前に行った高校生対象の調査で、植物と対話しながら灌水する者が一定数存在することが示されたが(注6)、園芸植物が、観る者の気持ちを受け止めたり、観る者の心の中での自己との対話を促進する存在となっていることも、安らぎをもたらす要因の一つとして考えられる。

(3)栽培することで安らぐ

野菜の世話をしている時は、心が楽になった気がする。やな事があったり、学校がめんどくさくなった時に、野菜に水をあげにいっていた。
授業の前に友達とトラブルがあり、すごく気分が悪く授業どころではないと思うほどだった。しかし、その授業で外の畑の草むしりを1時間ひたすらやっていたら、いつの間にか心が落ち着いていて、次の時間、その友人とも普通に話ができた。
授業や家で、植物、特に花を育てている時に落ち着いた。
イライラしている時、ひたすら栽培していたら、イライラを忘れて楽しくなっていた。
作物を栽培して収穫の時、何か心がワクワクした。一生懸命育ててよかったと感じた。
 このことと関連して、平成12年度『生活園芸』受講生15名に、「あなたにとって『生活園芸』(栽培体験)はどんな時間でしたか」という調査を行った。回答のなかには、「新しいことを知ったり、世界が広がる時間」という、知識や技術の習得に関する回答もあったが、「心が落ち着く」「嫌なことを忘れられる」「自分らしくいられる」「のびのびできる」時間と回答したもの者が10名(66.7%)いた。「楽しい」時間という回答も合わせると14名(93.3%)の者が「心の居場所」のイメージにつながると考えられる回答を寄せていた。
 また、「『生活園芸』を通じて、授業を受けた直後の短期的な変化と、1年間学んでの長期的変化」を自由に記述してもらったところ、短期的な変化については、「楽しい」「栽培や収穫が楽しみ」という感想が6名から寄せられた他、「のんびり、なごんだ」「景色がきれいに思えた。いつもよりも」といった、安全欲求の充足に関係すると考えられる感想が寄せられた。また、長期的な変化についても、「自然が好きになったり、さまざまな体験が楽しかった」「自分が豊かになった」といった感想が6名から寄せられた他、「自然にふれて、あったかいキモチになった」「気分にゆとり」「ゆったりできてよかった」といった、安全欲求の充足に関係すると考えられる感想が寄せられた。
 先の調査結果やこれらの回答に示されるように、園芸植物を栽培する体験は、高校生に安らぎをもたらす活動になっているといえよう。主体的に園芸植物にかかわる作業に専念することを通じて、自ずと、雑念から意識が解き放たれるという効果があるように思われる。また、作業の特性として、ゆったりとした時間の流れのなかで、程好い運動量の作業に取り組むことが、リラクゼーション効果をもたらすのではないかと思われる。

4 園芸植物の学校生活への取り入れ方

 このように、園芸植物そのものを活用したり、栽培体験の機会を用意することが、高校生が安らげる「心の居場所」を実際に作っていくときに有効なのではないかと思われる。それではその際、園芸植物やその栽培体験を、具体的な学校場面にどのように取り入れていくのかという問題が出てくる。この点について、これまでの経験から考えてみると、意外とさまざまな機会が提供できるのではないかと思われる。
 かつて、七夕飾りを教材に、園芸デザインを試みる授業を行ったことがあった。その準備で、農場の笹を刈り取り、ふだんは実験室として利用している部屋に大量に持ち込んだところ、部屋の空気が一変したことに驚いた。考えてみれば、喫茶店などに観葉植物が置いてあったり、ベランダに植物を飾ったりすることで、空間の質を変えることが行われているが、日ごろは殺風景な実験室に緑が持ち込まれることで、部屋の雰囲気がものすごく変わるのを目の当たりにしたのは、新鮮な驚きだった。
 ある美術の先生が、教室中を名画やポスター、生徒の作品などで飾ることで、学級の、また生徒一人一人の雰囲気が和やかなものに変わっていったという実践を読んだことがある。同じように、生活環境の構成という点で、教室や学校のあちこちに、園芸植物を飾る実践があるのもよいのではないかと思われる。その際、植物の設置や管理を生徒が行うということも大切である。
 また栽培体験は、農業の専門教科以外の時間にも、工夫によって取り入れる余地があるように思われる。たとえば、筆者の経験でいえば、総合学科の原則履修科目『産業社会と人間』のなかでも、菜園作りが行われていた。実施形態は、1時間のオリエンテーション(作業内容の説明など)のあと、2時間を使って菜園作りが行われ、それ以降は、放課後や空き時間を使って、各自で自分の菜園を管理していくというものであった。このように、授業時間をそれほど確保しなくても、休み時間や放課後などの時間割外の時間を利用すれば、栽培体験を行うことは可能である。
 この体験学習のふりかえり調査では、受講生146名の81.5%に当たる119名が「よかった」と回答している。「ふつう」が15.1%(22名)、「よくなかった」は3.4%(5名)であった(注7)。また、栽培体験に対する自由記述の中には、「経験がなく、新鮮で面白かったが意外な重労働に驚いた」「菜園づくりは自己管理の第一歩だ」「努力あっての喜びを感じた」といった意見のほか、「種植えから成長させるのは初めてなのですごく勉強になり楽しかった」「長い時間かけて作った畑に植えた苗は努力の結晶で、とてもかわいく、まるで自分の子どものよう」「久しぶりにはしゃげた」「久しぶりに土にさわれて楽しかった」といった安全欲求の充足に関係すると思われる感想が寄せられた。
 どの高校でも、HR活動や、食農教育なども注目を集めている「総合的な学習の時間」を活用すれば、園芸植物を学校生活に取り入れたり、栽培活動を行っていくことが可能なように思われる。
 高校生の自己実現を援助するために、まず、どんなことができるのかということを考えたときに、安全欲求を充足させること、換言すれば「心の居場所」を用意することが、学校生活のベースとして重要であると考えられる。学校がそうした「心の居場所」となっていくために、これまで筆者の行った実践や調査の結果から、園芸植物やその栽培体験を活用することが一つの具体的な方策としてあるように思われる。
1) Abraham H. Maslow "TOWARD A PSYCHOLOGY OF BEING Second Edition" Van Nostrand Reinhold Company 1968(上田吉一訳『完全なる人間 第2版』誠信書房、1998)pp.27-31
2) Abraham H. Maslow "MOTIVATION AND PERSONALITY (Second Edition)" Harper & Row 1970(小口忠彦訳『改訂新版 人間性の心理学』産能大学出版部、1987)p.72
3) 少なからぬ子どもたちがストレスを感じたり、学校嫌いの感情を抱えながら学校生活を送っていることが、たとえば『生徒指導』(秦政春、放送大学教育振興会、1999)、『教室から見た不登校』(森田洋司・松浦善満編著、東洋館出版、1991)に示されている。
4) たとえば、平成10年の中央教育審議会答申(「新しい時代を拓く心を育てるために」―次世代を育てる心を失う危機―)「第4章 心を育てる場として学校を見直そう」のなかに、「『心の居場所』としての保健室の役割を重視しよう」という提言がある。保健室だけでなく、学校全体が「心の居場所」になることがより重要と考えられるが、いずれにせよ、平成4年の学校不適応対策調査研究協力者会議報告(登校拒否(不登校)問題について―児童生徒の「心の居場所」づくりを目指して―)以降、「心の居場所」に関する提言や言説が多くなされるようになってきている。
5) 高柳真人「高校生の居場所に関する予備調査」日本カウンセリング学会第32回大会発表論文集、1999、pp.85-86
6) 高柳真人「"水"の教育力を生かした実験・実習指導に関する一考察」筑波大学附属坂戸高等学校研究紀要 第31集 1993 pp.67-72
7) 松筑波大学附属坂戸高等学校 平成12年度「『産業社会と人間』の授業を終えて」アンケート結果(校内資料)
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