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(6) 生活文化の語り部・農村の高齢者
(7) 教育にとっての家畜の活用
出典 『農業教育』63号 2001年 12月号

3 草木染めを通して山の四季のなかに生きる暮らしを伝える

 キクちゃんがいま力を入れているのが、体験交流施設「なないろ工房」を拠点にした草木染めの講習です。「なないろ工房」は、錦町林業振興会とキクちゃんが所属している錦町林業振興会女性部会が資金を出し合い、町の空き店舗を改造してつくったものです。
 キクちゃんたち錦町林業振興会女性部会が草木染めに取り組むきっかけとなったのは、旭村の女性たちとの交流でした。旭村の女性たちが山の材料を生かして草木染めに取り組んでいるのに感動し、キクちゃんたち女性部会も草木染めに取り組み始めたのです。
 はじめは失敗に失敗を重ねましたが、ようやく作品ができるようになり、町もこの活動に補助金を出してくれるようになりました。このことが契機になって、「なないろ工房」がつくられたのです。
 サクラ、スギ、キハダ、ナンテン、タデ、コアカザ、アセビ、セイタカアワダチソウ、ヨモギ。草木染めは、こういった生きている材料の葉や茎、樹皮などを使って染め上げます。季節によって、また材料によって、黄色やグリーン、茶色、ピンクといったように、いろいろな色が楽しめます。
 キクちゃんたち林業振興会女性部会の女性たちは、この木は、この葉はどんな色に染まるのか考え、実際に試すのが楽しみになり、草木染めの材料がたくさんある山に行くことがますますおもしろくなってきました。
 錦町は、ルーラルガイドに登録されている人が県内でも一番多いためか、ルーラルウェルカムセンターの案内で「なないろ工房」を訪れる人は多く、キクちゃんたち林業振興会女性部会はその対応で大忙しです。
 山口県教育庁福利課の企画で、小中高校の先生たち三十数名が体験学習に来たのも、ルーラルウェルカムセンターの案内によるものでした。キクちゃんたちは、三十数名の先生たちに、草木染めのすばらしさや楽しさを語り、実際に体験してもらいました。
 「季節季節のいろいろの素材によって色が変わるばかりでなく、同じ素材を使って同じ時に染めても、素材の煮方によって色が変わります。だから草木染めは生き物です」と語るキクちゃんや、キクちゃんたちの仲間の言葉に、先生たちも山の季節による色の移り変わりと山間地に生きる人たちの暮らしを感じ取ってくれたようです。
 その後、この草木染め体験に参加した小学校の先生が、6年生の「総合的な学習の時間」で草木染めを取り上げることになり、キクちゃんとキクちゃんの仲間、合わせて4人が、社会人先生として招かれました。
 このときは、キクちゃんたちは青いシソの葉とキハダの葉を用意し、1クラス50人、2クラスの6年生に草木染めを教えました。ハンカチが、青シソの葉で染めるとグリーンに、キハダの葉で染めるとピンクに染まると、子どもたちから歓声があがりました。
 「草木染めを通して、山の大事さと、山にあるいのち、山に生かされるいのちを感じてほしい」というキクちゃんたちの思いが、子どもたちにも伝わったようです。
 

4 山に生かされ、山を生かす暮らし

 キクちゃんたちの山との関わりは、昭和55年に開催された錦町婦人林業教室にさかのぼります。
 林業教室で、苗の育苗、病害虫防除、間伐、枝打ちなどを習ったことがきっかけで、キクちゃんたちは、自分たちで山を育てたいと、仲間18人で婦人林業研究会を発足させました。そして1人10aの山を家族から借り受け、間伐や枝打ちの技術をお互いに研鑚しました。また研究会の活動資金を得るために、町有林や森林組合の作業請負もしましたが、それも一人前の林業技術を身につけるのに役立ちました。
 よく手の入った山は木材を生産するだけでなく、水をたたえる天然のダムでもあります。錦川の水源として、住民は、日々の暮らしに山の恩恵を受けています。
 キクちゃんは、「人間が生きていくうえで山ぐらい大事なものはない」といいます。その山に年々手が入ると、少しずつ変わっていく様子が見え、きれいになった山を見て、キクちゃんたちに自信がわいてきました。
 そして自分が育てた山はいとおしく、「手をかけた木はまっすぐに育つが、手をかけなかった木は曲がってしまう。自分の子と同じよ。いま木は安いけど、この木が大きくなって100円にもならなくても私には大事なの。1本1本がかわいいの」とキクちゃんは話してくれました。「酸性雨で葉先が白く枯れていく様が痛ましい」と、環境問題にも強い関心を持つようにもなったのです。
 昭和63年にキクちゃんは県の指導林業士に認定され、県の研修会に参加した折に、徳島県のかずら細工のことを聞き、それをきっかけにキクちゃんはかずら細工に取り組みました。山の手入れにいけば「かずら」はたくさんあります。「いままで誰も振り向かなかったかずらが、大事な資源として活用できるとわかったときの喜びはいまも忘れらない」と、キクちゃんはいっています。
 できたかごは各種のイベントのときに売ってみたところ、よく売れました。そこで仲間たちみんなでかずら細工に取り組むようになり、山に行くのが楽しくなってきました。
 こうして山と関わり、朝市や農産加工に取り組んできたキクちゃんたちの暮らしのなかにある知恵や技、経験が、いま錦町を訪れる人たちの体験学習に役立ち始めています。
 キクちゃんたちが伝えることは、草木染めやかずら細工、炭焼きや、豆腐づくり、こんにゃくづくりなど、暮らしに密着し、しかも地域の自然を生かした本当に豊かなものばかりです。
 第3セクターが運営している岩国から錦町に至る錦川清流線は、利用客を増やすために「わんぱく列車」を季節季節に運行しています。それに伴っていろいろな行事が催されていますが、この行事のなかでも、草木染めや豆腐づくり、こんにゃくづくりの体験学習が組まれ、キクちゃんたちが活躍しています。

5 農業の持つ根源的な教育力を伝える農村の高齢者

 キクちゃんたちの実践を振り返ると、人間が自然と寄り添いながら暮らしている農業というのは、「いのち」を育てる業だとつくづく思います。子育てと響きあうものが農業にはあるのです。そして農業は、「いのち」を食べて生きていくことでもあります。そういう営みを包み込んでいる場が、農村の人たちが暮らしの営みを通して形づくり、歴史を根源でつくってきた生活空間なのです。この生活空間は、人間が生きることそのものを根源的に照らし出します。
 それがどれほどの深い教育力を持っているかということを、夏休みに牛の肥育農家にホームステイした女子高校生の体験が語っています。山口県内の女子高校の2年生、Yさんは、それまで農業にあまりよいイメージを抱いていなかったが、ホームステイを通して農家の生き生きとした充実感に圧倒され、自分の認識が間違っていることに気づかされたといいます。Yさんは感想文で次のように書いています。
 「今回のホームステイで、恵まれた日本に生まれ何不自由なく育ってきた自分をつきつけられたような気がする。(中略)ホームステイ最終日、4頭の牛が出荷されたとき、わたしは何ともいえない複雑な思いに胸がしめつけられた。鼻水を付けられたり、なめられたりしながら、わたしが一生懸命世話した牛たち。それが人間の空腹を満たすためだけにその命を失うなんて、むなしすぎる。また、そういった他の生命の犠牲のうえにしか生きていけない人間のなんと悲しいことか。わたしたちの『食べる』という行為には、数えきれない人たちの苦労や貴重な犠牲があるのだ。農家の人びとはこのことをもっとも身近に感じ、実践しているとわたしは思う。
 現在、農業人口は減少し、高齢化している。このままわたしたちが農業の重要性を無視し、おごった生活を送れば、生命の存続の危機である。わたしは今後、この罪深い生物のひとつとして『食』について真剣に考えていきたい。真の豊かさのために、また、自分の人生のために……」
 キクちゃんたちのような農村の高齢者は、この女子高校生がふれた農村の生活空間が生み出した深く豊かな生活文化の語り部です。その語り部たちを通して、子どもたちが農業の根源的な教育力に出会い、自らの「生きる力」を育まれんことを願っています。
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