(1)
農山村フィールドワーク体験による農業・環境学習
(2)
触覚に注目したブルーベリーの目隠し収穫体験プログラム
(3)
食農教育から生まれる教育的効果に関する
(4)
地場産学校給食を入り口に幼稚園も小学校も積極的に食農教育
(5)
連携してここまで高めた小学校の「総合的な学習」と農高の教育力
(6)
生活文化の語り部・農村の高齢者
(7)
教育にとっての家畜の活用
出典
『農業学習の教育効果に関する総合的研究』
執筆
山岸 主門(島根大学生物資源科学部)
小浦 誠吾(南九州大学園芸学部)
協力
日本農業教育学会
3 通常収穫と目隠し収穫との比較
目隠し収穫が通常の収穫とどのような点が異なるのか把握するために、次のような試験を行った。筑波大学農林技術センター植栽の21年生ラビットアイブルーベリー‘ティフブルー’7樹を試験に用いた(文献5)。被験者は12人(男性9名、女性3名)とし、収穫最盛期に当たる8月上旬に実施した。試験は、通常収穫(手のひらや目を拘束することのない通常どおりの収穫)と目隠し収穫(アイマスク装着)をそれぞれ5分間ずつ行った。調査は、精神的負荷を把握する目的で心拍数を、そして、収穫中に誤って足元に落下させた果実数、収穫果実数(成熟段階ごとに分類)、不要物である小果柄が付着した収穫果実数を記録した。さらに、能率、精度、精神的負荷および成熟程度判別基準(果実の大きさ、硬さ、小果柄からの取れやすさ)の体験前後の被験者の主観の変化を比較するために、聞き取り調査を行った。
主な結果は次のとおりである。
(1)能率
通常収穫に対して、目隠し収穫は約4割の1分当たり18果であった(第2表)。また、聞き取り調査では、目隠し収穫では体験前のほうが体験後よりも能率の低下を強く意識する傾向が認められた(第3表)。すなわち、目隠し収穫を実体験してみると、予想よりも容易に収穫可能であることを実感できたものと思われた。
第2表 作業能率、作業精度および心拍数
能率
(果/分)
成熟
果率
z
(%)
適熱
果率
y
(%)
小果柄
付着率
(%)
誤って落下させた果実割合
x
(%)
心拍数
(拍/分)
心拍数
増加率
w
(%)
目隠収穫
18
89.7 a
96.6 a
9.3 a
18.3
91.7 a
13.9 a
通常収穫
44
94.5 a
99.7 b
4.6 a
3.4
91.2 a
13.3 a
有意性
**
ns
*
ns
**
ns
ns
z:
成熟果率=(V段階果実数)/(全収穫果実数)×100
y:
適熱果率=(III〜V段階果実数)/(全収穫果実数)×100
x:
誤って落下させた果実割合=(落下果実数)/(落下果実数+収穫果実数)×100
w:
心拍数増加率=(作業時心拍数−安静時心拍数)/(安静時心拍数)×100
v:
対応のあるt検定により試験区間に、**;1%水準で有意差あり、*;5%水準で有意差あり、ns;有意差なし
(2)精度
目隠し収穫ではとくに、適熟果率と、誤って落下させた果実割合が通常収穫より有意に劣る結果となった(第2表)。被験者の聞き取り調査では、触覚情報に依存した目隠し収穫では、0〜1点台の低い得点であった(第3表)。ただし、目隠し収穫の場合、体験前の予想得点よりも体験後の実感得点が有意に増加していたことから、実際に目隠し状態で収穫体験すると、予想以上に高い精度で収穫できた、という被験者の意識の変化が読み取れた。
(3)精神的負荷
心拍数やその増加率に試験区間の相違は認められず(第2表)、また、精神的負荷によるとみられる心拍数の変化も観察されなかった。聞き取り調査でも、目隠し収穫時の精神的負荷は比較的低く、とくに体験後にストレスが減少傾向であった(第3表)。このことから、本体験プログラムを行う際、不安やストレスを体験者に与える心配は大きくないものと考えられた。
第3表 聞き取り調査による目隠し収穫時の能率、精度、
精神的負荷および成熟程度判別基準の体験前後の変化
体験前(予想)
体験後(実感)
有意性
s
能率
z
0.8
1.3
ns
精度
z
0.9
1.7
**
精神的負荷
z
自信がない
x
2.3
2.7
ns
恐怖感
w
2.1
2.3
ns
判別基準
y
大きさ
v
1.8
1.8
ns
硬さ
u
1.7
0.8
ns
取れやすさ
t
0.8
2.0
*
z:
以下のように得点化し、平均値で示した(体験前を例に挙げて)、自分自身の通常収穫を基準として、0点;非常に低くなる(不安)だろう、1点;かなり低くなる(不安)だろう、2点;やや低くなる(不安)だろう、3点;変わらないだろう
y:
以下のように得点化し、平均値で示した
0点;基準にしない、1点;第3基準、2点;第2基準、3点;第1基準
x:
収穫することができるかどうか自信がない
w:
足場や毛虫の存在等に対して恐怖感がある
v:
指で果実を触って大きいものほど成熟が進んでいる
u:
指で果実を触って軟らかいものほど成熟が進んでいる
t:
指で果実を軽く弾いて取れやすいものほど成熟が進んでいる
s:
対応のあるt検定により体験前後に、**;1%水準で有意差あり、*;5%水準で有意差あり、ns;有意差なし
(4)成熟程度判別基準
体験前の予想は被験者によってさまざまであったが、特に、果実の硬さを予想していた被験者の多くが、実際には取れやすさを基準として採用していた(第4表)。
また、目隠し状態で収穫を経験したことによって、成熟果が未熟果に比べて軟らかく、取れやすい特徴をもつことに初めて気づいた被験者も数名いた。つまり、視覚制限のない状態では気づくことが難しい、または知識として頭にはあっても意識しづらい、成熟にともなう物理的な果実の変化を、目隠しというフィルターをかけることによって実感し、体得することが容易になったものと予想された。
さらに、実際に果実の大きさを第一基準とした被験者は、いずれも1果ずつゆっくり摘み取っていたのに対して、取れやすさを第一基準とした被験者のすべては、指先で果実を軽く弾き、手のひらに受けるという、栽培農家が一般的に用いる、比較的能率の高い収穫方法を無意識のうちに取り入れていた。
第4表 目隠し収穫時における成熟程度を判別した
主な基準の体験前後の変化
被験者
体験前
(予想)
体験後
(実際)
収穫方法
A
大きさ
z
大きさ
摘み取る
B
大きさ
大きさ
摘み取る
C
大きさ
大きさ
摘み取る
D
硬さ
y
大きさ
摘み取る
G
大きさ
取れやすさ
弾き落とす
E
硬さ
取れやすさ
弾き落とす
H
硬さ
取れやすさ
弾き落とす
I
硬さ
取れやすさ
弾き落とす
J
硬さ
取れやすさ
弾き落とす
K
取れやすさ
x
取れやすさ
弾き落とす
F
取れやすさ
取れやすさ
弾き落とす
L
取れやすさ
取れやすさ
弾き落とす
z:
指で果実を触って大きいものほど成熟が進んでいる
y:
指で果実を触って軟らかいものほど成熟が進んでいる
x:
指で果実を軽く弾いて取れやすいものほど成熟が進んでいる
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