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(1) 栽培方法を科学的に考えさせる栽培マル秘作戦の実践
(2) 栽培体験の教育的効果に関する
(3) 地域の教育力を取り入れた栽培学習
出典 『農業学習の教育効果に関する総合的研究』
執筆 會田 充志(埼玉県入間市立金子中学校)
石田 康幸(埼玉大学教育学部)
協力 日本農業教育学会

4 調査結果と考察

(1)事前調査の結果

 中学生の栽培経験については、ほぼ全員が小学校一年生のころの授業で、アサガオやパンジー、チューリップの栽培を行っていた。また、6名(13名中)が家庭でも栽培体験があった。しかし、現在自宅などで何らかの栽培を行っているものは3名であった。同時に、植物や栽培を行うことへの意識は高く、特に「植物を育ててみたい」と「思う」生徒が半数を占めた。それに対して、「植物を注意してみるようにしている」生徒は少ない(表1)。
 むしろ、日常生活では植物に注意を払っていないことが認められた。

(2)栽培体験による生徒の意識の変化

 栽培体験を重ねるにつれて、植物や栽培に対する生徒の意識が高まっていく傾向が各項目で認められた(表1、2)。
 一つ目として、事前調査で最も少なかった項目、1)「植物を注意してみるようにしている」については、授業後明らかに変化が見られた。項目6)「植物を大事にするようになった」でも同様な傾向が認められた。栽培を体験することにより、植物に対する関心や受け入れる気持ちが高まったことが認められた。
 二つ目として、実際に栽培を体験することにより、項目2)「栽培は楽しいと思う」や項目3)「植物を育てることはおもしろい」と強く感じるようになった。特に後者は、生徒の評価が高く、A・B期ともに3.77を示した。その理由として、「成長」が多くあげられ(表3)、これは大学生に対して行った調査結果とも一致した(文献11)。同時に、体験を重ねるにつれて記述内容が増加し、より具体的になった。このように栽培体験は生徒の心に明確な反応を引き起こし、植物の「成長」がその鍵となることが認められた。
 三つ目として、項目5)「植物を育てることは役に立つ」への評価は高かったが、項目4)「花や野菜を育ててみようと思った」や、項目7)「誰かに栽培を教えたいと思う」は比較的低い得点となった。このように、生徒は栽培そのものの価値は認めているが、実際に活用することや広めていくことは難しいと感じているようである。

(3)生徒一人一人の感受性を育む

 ところで、項目7)を詳細に見ると(表4)、A期より向上した生徒は1名だけである。4名の生徒が逆に得点が減少している。教えたい理由を見ても、肯定的な意見は4名であり、得点が高くても実際には記述内容が否定的になっている生徒Cのような者も現れた。4名の意見を見ると、栽培によって教えたいものを「何か」「色々」「いいところ」といった「曖昧な言葉」で表現した。生徒は、明確には表現できないが、感情的な面で栽培のよさを伝えたいと考えている。その「おもい」はきわめて個別性が高く、「多様性」をもっていると考えられる。
 一方、筆者らの経験では、木材加工や金属加工などでは、通常このような多様性は認められない。栽培は生命体や自然環境といった多様な要因を扱うため、その時々に応じて判断し選択していく必要が生じる。そのため、生徒は植物の成長を目で見、手で感じ、場合によっては匂いをかぎ、味を感じるなど、既成概念でなく五感によって植物に接している。これらのことが、「多様性」の大きな要因であると考えられる。これらのことから、栽培体験は生徒の「感受性」の醸成に大きく寄与しているのではないかと思われる。

(4)個性の発露と新鮮な感覚

 選択技術を受講したある生徒は、正規の授業(注3)で行われた「情報とコンピューター」に関する学習で、当初はコンピューターの扱いに興味をもっていたが、学習を重ねるにつれて学習意欲が低下した。しかし選択授業では、単純作業である稲の籾殻取りに粘り強く取り組む姿勢が見られた。これは栽培体験が、生徒が本来もっている個性を引き出したものと考えられる。
 また、栽培はコンピュータゲームと違いやり直しがきかないという点でも、「ゲームとはまた違った感覚がイイ感じ」という報告(文献12)にも見られるように、新鮮な感覚を育てる要素をもつ。ぐんぐん成長していく稲の様子は、生徒の目には不思議な生き物として映し出されたようであった。
表1 植物に対する生徒の意識(事前調査,4月)
調査項目 事前
思う やや思う あまり
思わない
思わない 平均※※
植物を注意してみるようにしている 0(0) 4(31) 7(54) 2(15) 2.14
植物を育てるのは楽しい 3(23) 5(38) 3(23) 2(15) 2.71
植物を育ててみたい 7(54) 3(23) 3(23) 0(0) 3.29
(※:人数(%),※※:各段階を得点化した際の平均)
表2 植物に対する生徒の意識(事後調査,7・12月)
調査項目 平均   標準偏差
A期 B期   A期 B期
栽培は楽しいと思う 3.62 3.69   0.87 0.63
植物を注意してみるようにしている 3.38 3.08   0.87 0.49
植物を育てることは役に立つ 3.38 3.54   0.87 0.66
植物を育てることはおもしろい 3.77 3.77   0.83 0.83※※
花屋や野菜を育ててみようと思った 2.85 2.92   1.07 0.95
植物を大事にするようになった 3.46 3.46   0.88 0.66
誰かに栽培を教えたいと思う 2.62 2.31   0.96 1.11
(※:各段階を得点化した際の平均,※※:A・B期の得点が完全に一致)
表4 誰かに栽培を教えたいと思う
生徒 得点 理由
A期   B期 A期   B期
A 4   4 おもしろいから   家でごろごろしているより、全然栽培とかをやっていた方がおもしろいし、枯れてしまった時の気持ちとか色々自分で思うものがあって、色々な意味で勉強になるとおもうから。
B 4   4 興味のある人には是非教えてみたい   みんなにも栽培のいいところを知ってもらいたいから。
C 3   3 「楽しいよ」というのは伝えたい   土いじりが嫌いな人は、ずっと嫌いですから。
D 3   3 育てて食べることがよいことである   野菜だったら食べられるし、お花も自分で育てたらすごくきれいだと思えるから。
E 3   3 育てる楽しさを教えてあげたい   思うが、教えることはあまり得意ではない。
F 3   3 親に教えて、家の中に花とかを増やしたい   1から10までの段階が見てるのが楽しくて、食べるだけじゃなく楽しかった。この理由を教えたら、人の心に何かが生まれればいいと思った。
G 3   1 めんどい   めんどい
H 2   1 間違えそう   やり方がわからない。
I 2   1 教えられない   めんどくさい
J 2   1 面倒   めんどい
K 1   2 むずかしい   説明するのは大変だ。
(※:無回答2名)
表3 植物を育てることはおもしろい理由
生徒 理由
A期   B期
A 少しずつ成長していっているのをみると、うれしくて、おもしろいから   育つ様子を見ているととってもおもしろい。じぶんが一生懸命育て見てきたものが大きくなる(また収穫できる)と、やっぱうれしくなるから。(虫はいるのは嫌だけど・・・いいものには虫がつくからよ成長するこことがとてもうれしいし、もし食べ物だったら食べることができるし、植物をきれいに咲かせる工夫も知ることができるから
B 花が咲くとうれしい。生活に役立つ
C 自分が頑張って手入れすると大きくなって、おいしく食べられるから   おいしく育てられたら、おいしく食べられるじゃないですか。
D 成長を見ていると、ほんとにおもしろい。そして、うれしい   最初は種だったものが、どんどん生長していくのを見ていて、とてもおもしろいと思ったからです。
E 自分で育てた野菜が食べられるから   自分で育てたものはおいしいし、植物が大きく育つのもうれしい。
F 興味なかったけど、きゅうりが実になったことで、とても楽しくなった   1から10までの段階が見てるのが楽しくて、食べるだけじゃなく楽しかった。
G 自分が育てているのが成長していくのがおもしろい   小さな種からきれいな花が咲いたりするのはおもしろい。
H 成長をみられるから   成長を見られるから。
I     大きくなるのがわかるから。
J どんどんのびていくのがおもしろい   どんどん成長するから。
K 食べたりできるから   自分で育てればなんか楽しいと思いました。
(※:各段階を得点化した数値,※※:無回答2名)

5 まとめ

 栽培体験には、教育現場でさまざまな効果が期待されている。学習指導要領などでは、情操的側面や技術的側面といった広い範囲での効果が期待される。本研究では、栽培体験が中学生にもたらす影響について選択技術を受講する中学生を対象に調査、考察を進めた。
 その結果、栽培体験は植物に対する関心や反応の面で大きな影響を与えることが明らかになった。生徒は栽培体験により、既成概念にとらわれず、外界からの刺激に敏感に反応することできる「感受性」の増進を通じて、生命の大切さやものに対するいたわり、愛着、生命に対する責任感などを育てたようである。なお、栽培の状況や環境によって、その比重は変化すると考えられ、栽培体験に取り組む個々の生徒に応じた効果を期待することができる。
 今後、多くの教育現場で、栽培体験の教育的効果を期待した取り組みが行われていくであろう。本研究では、「感受性」などの情操的側面への効果が確認されたが、栽培体験のもつ多様さは、さまざまな教育的効果をもたらすと同時に、計画された教育活動の目標と反する結果を引き起こすおそれもある。栽培体験を通じての教育活動の実施には、目標に応じた指導方法と、十分な指導体制の確立が肝要であり、そのための研究を今後推し進めたい。
1) 埼玉教育第57巻第2号(pp.2~3)に掲載された「埼玉県公立小中学校における「食農教育」に関する実態調査について」(埼玉県立農業教育センター)の報告。埼玉県内の公立中学校で農業体験学習を実施している152校では、農業体験学習での効果として「収穫の喜びを体験できた」「作物を育てる楽しさがわかった」「自然や環境への興味・関心が育成された」が上位3項目に挙げられている。
2) 生徒が興味・関心に応じて選択する授業の一つ(文献3)。本研究では、技術・家庭科「A技術とものづくり(6)作物の栽培」を扱う授業。
3) 正規の授業とは、必修に当たる技術・家庭科の授業。第3学年は週1単位時間行われ、学習内容は「個人のWebページの作成」を行った。
 
参考文献
1) 文部省:小学校学習指導要領(1998)
2) 文部省:幼稚園教育要領(1998)
3) 文部省:中学校学習指導要領(平成10年12月)解説―技術・家庭編―、東京書籍(1999)
4) 會田充志・石田康幸:技術化教育に対する中学生および大学生の評価、日本産業技術教育学会第44回全国大会発表、講演要旨集、82(2001)
5) 石田康幸・瀬川眞也ら:東京都区内中学生の栽培領域の履修状況と栽培体験についての調査並びに環境問題をからめた栽培学習の実践、日本農業教育学会第57回講演会研究発表要旨集、43-46(1999)
6) 日本農業教育学会編:学校園の栽培便利帳、pp.9(1996)
7) 遠藤まどか・三島孔明・藤井英二郎:プランターでの植物栽培が脳波、心拍数、感情に及ぼす影響、人間・植物関係学会雑誌1(1):21-24(2001)
8) 石田康幸:改訂学習指導要領と栽培教育、日本農業教育学会22(1):13-21(1991)
9) 會田充志・石田康幸:栽培体験の教育的効果に関する一考察、日本農業教育学会第60回講演会研究発表要旨集、83-84(2002)
10) 石田晴久・加藤幸一・渋川祥子:新しい技術・家庭[技術分野]、東京書籍(2001)、pp.125
11) 會田充志・石田康幸:栽培体験による学生の意識の変容(1)、日本産業技術教育学会第13回関東支部大会講演要旨集、31-32(2001)
12) 會田充志・石田康幸:栽培体験による学生の意識の変容、日本農業教育学会第59回講演会発表要旨集、53-56(2001)
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