農業体験学習ネット
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(1) 小さな農業者の感性が発信する 花倉山からのメッセージ
(2) 幼稚園での植物栽培活動とその意義
執筆 澤口 道(静岡県焼津市・風の子の家)
○秋の季節 9月〜11月
 秋は自然界の実りの季節。野菜や果物の実りを味わうことができ、またどんぐり拾いや落ち葉拾いもできます。芋掘りで土を掘り、柿やみかんを収穫し、アケビを見つけ、木登りをする子供たちもいます。自動車に乗っていても、窓の外にカラスウリを見つけるほどです。木の実を目ざとく見つけると、今度は木の実を植えて育てることに関心を持ち、いろいろと質問責めです。そうして、子供たちの家でも、園の山でも、子供たちがそっと播いた木の実が芽を出し、子供たちの大切な宝物になっています。
 毎年この時期には、山梨の韮崎にりんご狩りに出かけるのが恒例の行事になっています。大きなリンゴを満面の笑みで二人して頬張る子、顔より大きいかと思うようなリンゴを両手で抱えてがぶりついている子・・・、そうした満足そうな子供たちの姿を横目に、親たちも同じようにリンゴにかぶりつきながら、親子で楽しい一日を過ごしました。帰りの車中では、一人の子供が困りきった顔で、「リンゴのおばちゃんに悪いことしちゃって。謝ってこなかったのでお手紙書きたい」と言い出し、よくよく聞いてみると「リンゴが美味しくて食べたけど、いっぱい食べすぎ苦しくなっちゃったから、リンゴの木の下に御免なさいって置いてきたけど、リンゴを育ててくれたおばちゃんに御免なさいを言ってこなかった」とポツリ。子供たちは作物を育て、育てたものを食べることの喜びもよく知っているので、作り手のおばちゃんのリンゴへの思いに気づき、子供心に痛みを感じ、その苦い思いを打ち明けてくれたのです。
幸いにも次の日、いつも子供たちのサポートをして下さっているお年寄りの方々をリンゴ園に案内することになっていたので、子供が粗末に食い荒らしていたら困ったなと内心穏やかならない気持ちを抱きつつ畑に行きました。リンゴの木の下を探してみるとその子の言った通り、リンゴが三つ丁寧にティッシュが敷かれた上にすまなそうに置いてありました。そのリンゴを手にとって眺めて見ると、小さな歯形がきれいについていて、頑張って丁寧に食べた子供の姿が浮かぶようでした。リンゴ園の方にもそのリンゴを見ていただき、子供のすまないと思う気持ちを伝えることが出来ました。「私たちだって不揃いなリンゴを山積みにして腐らせているのに、こんなに丁寧に食べてくれていて、それでも私らに御免なさいと言ってくれるような子供たちが来てくれて嬉しい」と言っていただきました。子供たちは大きなリンゴに出会って、単にはしゃぎ回っていただけではなく、ちゃんと作り手の苦労にも思いをはせながら、感謝の気持ちや食べものを慈しむ気持ちを持ってくれていたのです。そのような子供たちの心の成長を知り、食べものを食い散らかした行為への疑念を持った自分が恥ずかしくなると同時に、普段食べ切れない食べものを粗末にしてしまっている自分たちの非を、子供に教えてもらった貴重な体験でした。  
写真3 おいもを掘り当ててニッコリ
○冬の季節 12月〜2月
 子供たちは冬になっても寒さなどものともせず、毎日山に出かけて外で一日を過ごします。この時期は、それぞれの年令における活動を集大成する時期であり、また年長児の手から小さい子供の手へと、農作業の引継ぎが行なわれる時期でもあります。落ち葉を集めて堆肥づくりを行ったり、カブトムシの産卵場所づくりに励んだりします。小さい子に対して大きい子が、「カブトムシ好きになら頑張って蒲団作ってやらないとカブトムシで遊べないよ」「お兄さんたちは学校に上がるから、この先はいないんだよ。僕らも頑張ってやるから君たちも頑張って」と、励ましながら作業を引き継がせて行こうという年長児の配慮が見られます。また、ジャガイモの植つけの際には、ジャガイモを半分に切って切り口に灰を付け、切り口を上にして並べ、そして等間隔に畝に並べていきますが、作業がスムーズに進むように、年長児が小さい子どもに手ほどきしながら、分担して作業を進めます。その時の顔は大地にしっかり足を踏ん張って立つ、小さな生産者の顔になっています。自分たちの給食で一年通じて食べるジャガイモ。カレー、サラダ、肉じゃが、コロッケなど、様々な献立になって登場する姿を思い浮かべるからこそ、作業の方も頑張れるのでしょう。冬の季節は竹切りをしたり、ホダ木にしいたけ菌の菌打ちをしたりします。竹切りのノコギリで誤って手を引いてしまい、血を出して失敗することがあっても、あきらめずに傷口をなめながら竹を切り倒すまで頑張ります。全神経と体力を使って物事を成し遂げる達成感は、子供たちにとって大きな自信となり、心身ともに成長する姿を見せてくれます。このように周りの自然や毎日の農業体験の中で出会う環境が、子供たちを大きく育ててくれているんだとつくづく思います。
写真4 ジャガイモの植え付け
 
写真5 竹切

2 子供たちの豊かな感性を育てる環境の整備を

 子供たちが四季を通じて自然と関わり、「地産地消」の大切さを毎日の農業体験の中から学習し、五感をフルに使ってじっくりと時間をかけて育っていく。そのような環境づくりを行い、今一度家庭の中での「食育」の大切さを考えていきたいと思っています。対面キッチンが整い、子供にとっては母親の調理をする姿を眺められ、親にとっても会話を楽しみながら子供の姿に目を配ることの出来る理想的な台所環境でありながら、実際には食事づくりの手元も工程も子供の目から見えなくし、母親の調理する姿を身近でまねしながら学んでいく場をも奪ってしまっている現状への問いかけが、子供たちのメッセージから聞こえてくるようです。自然の中で生活し、自分たちの食べる野菜は自分たちで育てて食べる。こうした体験の中から、自分で見たことや感じたことを大切にして、未来に対して夢を持つことが出来るようになります。こうした科学の目を育てる原体験を大切にする場を、子供たちのために整えてあげることが、これからの大きな課題だと思います。
 焼津港で水揚げされる魚の丸かじりや花倉山の野菜の丸かじり、こうした子供たちの恵まれた環境を大人が一方的に奪うことのないように見守り、子供たちの豊かな感性が育てられるように、失敗をバネにしながら、今後とも学び続けていきたいと思います。
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